2021.03.01
日本の伝統の技を受け継ぎ、世界から認められた「江戸前鮨 二鶴」
2014年、2019年 ミシュラン2つ星を獲得した江戸前鮨 二鶴。その華々しい成功の陰には、江戸前鮨の魅力と自分の舌を信じ続けたひとりの鮨職人のストーリーがあった。
先人たちから受け継いできた技
福岡県北九州市。街の喧騒から離れた、足立山の麓に江戸前鮨 二鶴はある。暖簾をくぐり抜けると、無駄を省いたスタイリッシュな和モダン空間が眼前に広がる。鮨を握るのは、店主舩橋節男氏。江戸前鮨の伝統を受け継ぐ銀座の老舗「二葉鮨」で11年間修業したのち、鮨職人の三代目として、2002年に「江戸前鮨 二鶴」を開業した。
玄界灘に面した北九州は魚介が豊かで、数々の寿司店が乱立するエリア。江戸前鮨の認知度がないに等しい中で逆風にさらされながらも、江戸前鮨の伝統を守ってきた名店だ。
「江戸前鮨は、新鮮な魚をいかに美味しく食べるか、美味しさを追求するものです」と舩橋氏は語る。
江戸前鮨は、江戸時代に誕生した東京の郷土料理で、砂糖を使わず、赤酢と塩、そして東京湾で獲れた新鮮な魚のみを使うのが特徴だ。そもそも握り寿司というのは江戸前鮨のことを指す。関東大震災そして第二次世界大戦の後、寿司屋だけが国から営業を認められたため、見よう見まねで多くの飲食店が寿司屋を次々にはじめたことから、次第に伝統の江戸前鮨は埋没してしまったという。そんな中、東京でも歴史の古い「二葉鮨」は、江戸時代からの技を受け継ぐ名店として知られている。そこで修行し、江戸前鮨に魅せられたのが大将の舩橋氏だった。
異端児と言われて。苦節の7年──。
「北九州の新鮮なネタで握ったら喜ぶだろうなと思って開店したら、お客さんからは「これは寿司じゃない!」と言われたり、親父や周りからも東京かぶれした変わり者扱いされたり、鳴かず飛ばずで大変でしたよ」笑顔で話す舩橋氏だが、聞くと7年もの間そんな状況が続いたという。長い間苦労しながらも握り続けられたのは、先人たちの技術の結晶である江戸前鮨と自分を信じていたからだった。
「本当に辛かったですよ。家族には迷惑をかけました。でも、江戸前鮨は本当に美味しいから、お客さんにも自分にも嘘はつけなかった」
進化する江戸前鮨
流れが変わったのは2009年。味の分かるグルマンたちの間で少しずつ評判になっていき、東京で江戸前鮨が注目されると同時に、2009年にグルメ雑誌に掲載され、2013年には『家庭画報』に掲載された。そして2014年にミシュラン2つ星を獲得。今では二鶴の江戸前鮨を求めて、世界中からお客が訪れる。
関東では手に入らない獲れたてのネタ、ミネラルバランスの整った山陰地方の塩、地元のお酢屋さんと共同開発したオリジナルの赤酢を使用するという精緻なこだわりが、清らかな香りと味わいを引き立て、ここ北九州でしか味わえない江戸前鮨を格調高いものにする。
「今思えば、あの苦労した時代があったから努力することができたんです。今では地元の食材を使った独自の江戸前鮨に進化して、より深みのある味を楽しんでいただけると思います」
美味しさを追求すればするほど江戸前鮨になっていく様に、先人たちの知恵と技術への敬意は深まったという。先人たちの積み重ねてきたものを丁寧に紡いでいくことが大切だと謙虚な姿勢を崩さない。
「先人たちから預かっている“タスキ”が大事で、自分はマラソンの1ランナーにすぎません。戦後で曲がった江戸前鮨の文化を取り戻していきたい」
先人たちの知恵の結晶「江戸前鮨の美味しさ」を世界に伝えたいという想いから、小倉駅近くに弟子の丸谷翔馬氏が握る「江戸前鮨 翔馬」をオープンしたばかり。
「美味しいお寿司が食べたいなと思ったら、銀座ではなく北九州に来ていただけるような文化をつくっていきたいですね!」そう語る舩橋氏の目は、優しい輝きに満ちていた。
江戸前鮨二鶴 舩橋節男氏のONE ANSWER
「文化という凧は伝統という糸がないと上がらない」
店舗情報
江戸前鮨二鶴 HP http://www.edomaezushi-nikaku.com/index.html
〒802-0024 福岡県北九州市小倉北区足立1丁目4-31
電話(093)531-2442
営業時間 12:00〜14:00/17:30〜22:00
定休日 毎週水曜日・第一火曜日
白石明香
shiraishi sayaka(フリーランスライター・マーケター)
1982年、福岡県北九州市小倉北区生まれ行橋市在住。学生時代は外国語まっしぐらだったが、社会人になって日本語のすごさに目覚める。大手広告会社で営業経験後、フリーランスへ。関わる業界は不動産、食品、美容・健康など幅広い。