2021.08.15
伝統と革新の融合。「小倉かまぼこ」が100年守り続けるものとは?
大正9年に旧小倉市で創業した小倉かまぼこ。北九州市の旦過市場で、100年以上に渡り地域の人々に愛されてきた。近年では、「半熟卵のてんぷら」、「魚ロッケバーガー」といった数々の新商品も発売され、店頭で目移りしてしまう。
伝統の味を守りながらも、革新を続ける秘訣は一体なんだろうか?
答えを探るべく、令和に代表取締役に就いた四代目・森尾泰之氏にお話を伺った。
松本清張や松本零士をも魅了した味
「北九州の台所」と称される旦過市場のはじまりは、大正時代の闇市。隣接する神嶽川からの魚の荷揚げ場だった所で商売が興り、活気ある市場になっていった。
この地で創業したのが、森尾さんの祖父の兄であるいさぶろう氏。家族を支えるため、10代の若さで店を立ち上げたという。
「当時練り物を選んだのは、生活のために売り物を探した結果だと思います。戦時中はかまぼこの材料が手に入らないので、店前にパチンコ台を並べ、その売上で食いつないだそうです」
先代たちが苦労を乗り越え繋いできた、こだわりの味。その美味しさは、松本清張や松本零士といった著名人にも愛され、地元に根付いてきた。
一番人気は、「カナッペ」。魚のすり身に玉ねぎ・にんじん・胡椒を混ぜ込み、周りを薄いパンで巻いて揚げたもので、パン好きだった祖母がパンに魚のすり身を入れ揚げて食べていたところから着想。50年以上前に商品化した。外はカリッ、中はフワッとした食感と、ジューシーな魚のうまみが人気を博し、旦過市場の名物になっている。
実直にものづくりに向き合う姿勢
「父は簡単そうに作るので、出来るかな?と思っていたんですが、いざ自分がやってみたらものすごく難しい」
森尾さんが、家業であるかまぼこ作りを継ぐことを決めたのは25歳の時。父親には止められたという。
「父の代で大量生産に踏み出して、失敗したことがあるんです。商品の質を下げたくないのに、価格は買い叩かれて…その時は『毎日地獄やった』と。それに加えて業界の先細りもあり、子どもの頃から、跡は継がなくていいと言われていました」
そのため、長男の森尾さんは高校卒業後に実家を離れ、熊本県へ。半導体製造装置の会社で忙しい日々を送っていた。そんな中、会社の上司に実家のかまぼこを贈ると、とても喜ばれた。意外にも、県外に出たことで、家業の良さを実感したという。
姉弟も福岡を離れていたため、自分が両親の近くにいようと地元に戻ったタイミングで、四代目になる決心を固めた。
しかし、手作業によるかまぼこ作りは、想像以上に奥深いものだった。
素材にこだわり、すり身の最高ランクであるSA級を使用するだけではない。その日に使う分だけのすり身を毎日すりあげ、気温や湿度に合わせて、塩を入れるタイミングも微妙に変える。ひとつひとつの工程は、決して単なる作業ではなかった。
自分が子どもの頃から、実直に仕事に向き合う背中を見せてきた父親。その偉大さを改めて知った。
「父は職人気質で、真面目過ぎるくらいの性格です。若い時は、そんな父親を面白味がないと思ったこともありましたが…(笑)。100年続いてこられたのは、そうやってひとつひとつ丁寧に、真っ直ぐ仕事に向き合ってきたからだと思います」
伝統の重みを感じた森尾さん。しかし、その目はさらに先を見据えている。
次の100年で目指すもの
とろける黄身が人気の「半熟卵のてんぷら」は、森尾さんが考案した。時代のニーズに合わせて積極的に商品開発を行い、パッケージにもこだわっている。
さらに、市場の青年団で商品を共同販売するという新しい試みもはじめた。
「父の言葉が心に残っているんです。『自店のことだけを考えるんじゃなく、お客様と地域の繁栄を考えろ』と。旦過市場全体が栄えるために、何が出来るのかを考えていきたいですね」
再整備が予定されている旦過市場。こちらも、歴史を受け継ぎつつ、新風を吹かせるフェーズにきている。
子どもの頃から、ずっと変わらない美味しさを求めてやって来る常連さんがいる一方で、
SNSで小倉かまぼこを知り、大切な人に贈って大変喜ばれたという声が寄せられる。
「商品を通して、人と人の心を繋げられる仕事がしたいです」
今後の展望を語る森尾さんの表情は、明るい。
小倉かまぼこ 森尾泰之氏のOneAnswer
「想いを贈る、心を結ぶ。人と人の心を繋げる仕事を」
企業情報
会社名 小倉かまぼこ株式会社
代表者 森尾 泰之
本店・工場
〒802-0081 福岡県北九州市小倉北区紺屋町2-20
TEL 093-521-1559
FAX 093-521-1593
創業 1920年(大正九年)
旦過店
〒802-0006
福岡県北九州市小倉北区魚町4-2-19(旦過市場内)
Tel: 093-531-5747
北九州人図鑑でも紹介された
海野さやか(ライター)
大手IT企業のトラベル部門に10年勤務後、
シナリオライターとしてフリーランスに転身。
現在、東京青山のシナリオセンター・作家集団に所属。
小学生男の子2人のママでもある。東京都在住。